2014年1月19日

輸送艦<おおすみ>衝突事故と海上衝突予防法


新年が明けて間もない平成26年1月15日の朝、痛ましい事故が瀬戸内海で起きた。

海上自衛隊第1輸送隊所属の輸送艦<おおすみ>にプレジャーボート<とびうお>が衝突し、<とびうお>船長と乗客1名の計2名が死亡した。

<おおすみ>は三井造船玉野工場での定期整備を受けるために海上自衛隊呉基地を出航し、事故海域を通過していた。その<おおすみ>に対し<とびうお>が接触した形で事故が発生した模様だが、マスコミの報道には疑問を覚える。
<とびうお>の乗客の証言による「推測の航路」ばかり取り上げ、あたかも<おおすみ>が<とびうお>に突っ込んでいったかのような報道を、テレビ局各社や新聞各紙は行っている。<おおすみ>乗員の証言(防衛秘密等で難しいかもしれないが)やAIS(自動船舶識別装置)の記録を一切取り上げずに、だ。これではまるで<おおすみ>に非があるかのようだ。
この報道体制は、かつて護衛艦<あたご>と漁船が衝突した「イージス艦衝突事故」の際に、まるで海上自衛隊側に非があるかのように報道し、結果として海上自衛隊側の無罪が証明されたにも関わらず、その無罪を殆ど報道していないマスコミ各社の体質を顕著に表している。

そもそも輸送艦<おおすみ>は全長178m、全幅25.8m、基準排水量8,900トンのかつてマスコミ各社が「空母型」と取り上げたほど巨大な艦だ。操舵は簡単ではなく、回頭を行っても反応までタイムラグが大きいことは簡単に推測できる。
一方でプレジャーボート<とびうお>の正確な大きさは分からないが、「プレジャーボート」というからには数メートル程度であると推測するのが妥当だろう。ならば、操舵の反応性は<おおすみ>よりも早いことは想像に難くない。
つまり、<おおすみ>は<とびうお>を避けることも、<とびうお>に突っ込むことも難しい一方で、<とびうお>は<おおすみ>を避けることも、<おおすみ>に突っ込むことも簡単である、ということだ。

もちろん、航海でのルールの一つである「スターボード艇優先の原則」には船の大小や回避の可能性は関係ないが、そもそも<とびうお>は<おおすみ>の左舷に衝突した、つまり<とびうお>は<おおすみ>の左舷を航行していた。つまりスターボード艇優先の元速を継承した海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(COLREG条約)や海上衝突予防法といった観点から、<とびうお>に責任があると言って良いのではないだろうか?


また、目撃証言によれば<おおすみ>は衝突前に汽笛2回と汽笛5回を鳴らしたとのことだ。
前者の汽笛2回に関しては、海上衝突予防法第34条二「進路を左に転じている場合は、短音を2回鳴らすこと」による汽笛であると推測できる。後者の汽笛5回に関しては同法同条第5項「互いに他の船舶の視野の内にある船舶が互いに接近する場合において、船舶は、他の船舶の意図若しくは動作を理解することができないとき、又は他の船舶が衝突を避けるために十分な動作をとつていることについて疑いがあるときは、直ちに急速に短音を五回以上鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない」による汽笛であろう。これらの<おおすみ>の行動は海上衝突予防法に基づいた行動であり、<おおすみ>は十分に<とびうお>に対し警告を発していた。しかし<とびうお>は返答義務があるにも関わらず返答しなかった。まさか<おおすみ>の汽笛が聞こえなかった、ということはないだろう。
また、<とびうお>乗客の証言も併せて考慮すれば、<とびうお>は<おおすみ>の存在を把握し、確認していたということだ。


そして<おおすみ>の左舷を航行していた<とびうお>は<おおすみ>に衝突した。
スターボード艇優先の原則により回避義務のあった<とびうお>が、<おおすみ>の汽笛や存在を無視して<おおすみ>に衝突した。
<とびうお>にどのような意図があったかは不明だが、しかし<とびうお>に責任があったことは事実だろう。


死者のご冥福を祈るとともに、海の安全を心より祈念する。
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